<< ただいまー | main | 美しい軽に乗ろう >>

使命は友情に勝てるか

2006.03.08 Wednesday
火目の巫女
火目の巫女 / 杉井 光
(ネタバレを含む可能性があります。ご注意ください)
2月の電撃文庫は、恒例の「電撃小説大賞受賞作フェア」だ。今回の受賞作をはじめ、過去の受賞作の続編が数多くリリースされる。話題性としては十分な演出である上、読者のニーズに的確に答えるすばらしい企画である。

だが、基本的には「文学賞を受賞した作品」がリリースされるのである。僕個人としては、以前からこの種のことにある疑問を感じていた。続編が発売されるということは、物語にその元となる伏線があるということだ。すなわち、受賞作そのものが「シリーズ化」を前提として書かれている、その証明に他ならない。

文学賞に出品する物語が、シリーズ化を前提として書かれていて良いのか。物語へのこれからの期待のみで受賞作が決められているのではないか。そんな危惧がずっとあった。文学賞の受賞とは、もちろんある意味でのステータスにはなり得るけれども、出品された物語そのものがきちんと評価されるべきで、「続きに期待する」といった曖昧な評価基準は存在してはならないはずだ。僕はそう考えている。

だから、この「火目の巫女」は、久しぶりに「受賞作」として僕の欲求をきちんと満たしてくれる作品であった。

悪しき物の怪「化生」と神秘的な力を宿す少女たちの物語、という非常にありきたりな題材ではある。表にあらわれなかった、歴史の闇に封印された力の持ち主の物語は過去にも多数発表されているし、そのほとんどは上流階級が栄華を誇っていた平安時代を舞台として描かれている。だから、あらすじとして目新しい部分はほとんどないといっていい。ストーリー展開としても独創性は低く、評価するべき部分は少ない。

しかしながら、人物の相関関係や過去の生い立ち、歴史的背景など、物語を理解する上で必要な情報が簡潔に、それでいて的確に表現されているので、非常に読みやすい作品だ。情景や景観もしっかりと噛み砕かれて書かれている上、そのときの心情描写もしっかりと書かれているのでイメージがとてもしやすい。ところどころにイラストが挿入されているが、それらはそれぞれの人物が実際はこういう姿だ、ということを示すためだけに存在していて、たとえイラストがなかったとてなんら問題はないだろう。それほどにまで情景描写が書き込まれている。

少女たちはそれぞれに過去を抱えていて、それに裏打ちされた信念に基づいて今を生きている。使命感から来る衝動と、共に長い時間を過ごして培った友情と、果たしてどちらがより勝るものなのか。その答えを、一つの答えを投げかける作品でもある。使命のために友人を傷つけねばならなくなったとき、あなたならどうするか。そして対象となった彼/彼女は、どうするか。一つの答えがここにある。

物語はハッピーエンドでは終わらない。ところが、話の続きが紡がれることがないことは、読んでいただければお分かりいただけるだろう。完全なる「一環完結小説」だ。それゆえ、不完全である感覚を覚えることもなく、書かれていること以上の深読みをすることもなく、すっきりと読み終えることができる。

久々に「綺麗な物語」に出会った気がする。
| at 21:28 | PermaLink | | comments(0) | trackbacks(2) |
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
トラックバック
火目の巫女
火目の巫女 著者 杉井光 イラスト かわぎしけいたろう レーベル 電撃文庫  電撃小説大賞のレベルの低下がちょっと心配。  人気blogランキングへ ← よろしくお願いしま
  • ライトノベルっていいね
  • 2006/03/09 8:15 AM
火目の巫女
火目の巫女 著者 杉井光 イラスト かわぎしけいたろう レーベル 電撃文庫  電撃小説大賞のレベルの低下がちょっと心配。  人気blogランキングへ ← よろしくお願いしま
  • ライトノベルっていいね
  • 2006/03/09 8:16 AM
supporting
stella cadente.netは、

ジェフユナイテッド市原・千葉
千葉ロッテマリーンズ
つくばFC


を応援します。

ばぐー

故郷・地元スキー。
categories
entries
archives
search
Feed